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図学教育における透視図法の現状と今後

第36回図学教育研究会のお知らせ

 

テーマ:「図学教育における透視図法の現状と今後」

趣旨
これまで、特に美術系・建築系の図学教育において、透視図の投影原理と 作図方法の教授は重要な位置を占めてきました。しかし、CAD・CGが身近なツール として利用されるようになった現在、透視図の投影原理及び作図方法の習得を行わ なくても、透視図を作成することができるようになりました。このような変化の中で、透視図法の教育に関する現状について報告を行い、現在及び今後における 透視図法の教育のあり方や、透視図の役割について議論を行うことは意義のある ことと考えます。図学教育研究会では、このような趣旨に基づき、下記のような 内容の研究会を開催します。

日時
2005年 12月3日(土)


場所
摂南大学 寝屋川キャンパス
〒572-8508 大阪府寝屋川市池田中町17-8


プログラム
11:00-
  「透視図法の歴史(1):ルネサンス編」
  奈尾信英 (東京大学)
  本発表では,透視図法の歴史について,ルネサンス期のイタリアを中心に,2つの観点から論じる。そのひとつは,ブルネレスキの正統作図法からアルベルティの簡略作図法,ピエロ・デッラ・フランチェスカの直接法,そしてヴィニョーラの距離点法へといたる透視図法理論の展開についてである。もうひとつは,盛期ルネサンス以降に,ブラマンテ,パッラーディオ,ペルッツィら建築家たちによって用いられた立体透視図法の実践についてである。この立体透視図法に関しては,さらに「透視図法の歴史(2):バロック編」で詳説される。
11:20-
  「透視図の歴史(2):バロック編」
  岩谷洋子 (東京理科大学)
  本発表では,「透視図法の歴史(1):ルネサンス編」に引き続き,バロック期のイタリアで用いられた透視図法の実践について論じる。はじめに,建築家ボッロミーニのプロスペッティーヴァとベルニーニのスカラ・レジアを例に,完成期を迎えた立体透視図法の実践について説明する。さらに,バロック期の特徴であるヴェドゥータ(都市景観図)画家の実践について,ローマの景観図をもとに,その作図法を比較考察する。
11:40-
  「裸眼立体視図表示における透視投影アルゴリズムの改良」
  佐久田博司,矢吹太朗 (青山学院大学) , 香取英男 (テクファジャパン) , 小西奎二 (首都大学東京)
  立体視と対象物の回転による動的表示によって、立体の奥行き方向の情報を、人間の視覚に与えるためのコンテンツを作成している。透視図法により、左右の視差を表現するが、多面体のうち、非凸多面体の表示を高速に行うためのアルゴリズムを検討した。
12:00-
  「写真(透視図)からの立体の再構築に関する研究」
  西原一嘉、西原小百合、安富雅典、大西道一 (大阪電気通信大学)
  写真(透視図)からの立体の再構築の可能性についてはホーエンベルグの著書に書かれている。しかし、その例としてあげられているのは単一の立体(建物)を対象としたもので、また形状のみの再構築を行ったものである。本研究では複数の立体や曲面体を対象に形状の他寸法を含めた立体の再構築の方法について提案するものである。具体的には1枚の写真と地図を用いた建物の再現、2枚の写真からの義足のソケット作成の原理について報告する。
12:20-13:20
  昼食
13:20-
  「実践例の透視図を通じ、各自の潜在能力を発見するには。」
  松原勝 (成安造形大学)
  今や芸術系大学の大半がCAD、CG中心の授業計画になっているのが現状です。このような状況の中で、果たして各自の素質を発見できるのか疑問です。特に透視投影図法もその中に申し訳なさそうに組み込まれているようです。サブタイトルになる【手書き透視図法を通じ、素質の発見と潜在能力を出させるには】という、芸術系学生にとって、命題とも言える内容の演習を昨年と、今年も続けています。実践課題を通じた演習で、透視図という言葉はもちろんのこと、それに関する知識も全く無く製図用具の使い方も知らなかった彼らの制作物を見て頂きます。又、本テーマの中心となっている透視図法の手書き演習の必要性の否かの問題について、昨年より教えている当大学の住環境Dクラス内で,意見が出ているのは確かです。本発表をする頃には、演習も終盤を迎えていますが2005年度の学生から意見を取っていますのでお話できると思います。最後に、透視図法演習を通じた研究テーマとして、フリーハンド図法のアングル出しの時に学生の70%が【Foreshortening】の表現をしていることに気付き、実践演習から得たデータ-を整理していますので、これは大事な記録になると思っています。
13:40-
  「造船における図学教育の現状と透視図法応用への期待」
  高武淳夫 (高武技術士事務所)
  船舶を単独に対象とする学科の呼称がある大学は僅少になり、その包括された学科を含み、図学を教科とするところはなくなっている。最近になり「造船幾何」が復活した大学があるが、理由は明示されていない。15年ほど前からプロダクトモデルを中核とするCIMの応用が開始されているが、現在もなお3DーCADの適用普及が難航している。そこで、3面図に代わりうる透視図の適用が試みられ期待されている。
14:00-
  「美術系大学における透視図法教育の現状と役割」
  面出和子 (女子美術大学)
  美術系大学では、制作者をめざす学生、批評者をめざす学生、また将来何らかの形で美術と関わっていきたいと考える学生がいる。制作者は自分自身が思い描いたイメージを表現するために、また批評者にとっては制作者の表現を読み解くために、透視図法の原理を理解する必要がある。ここでは、女子美術大学における透視図法教育の現状を紹介し、その役割について考察する。
14:20-
  「図学の情報化を通して透視図法を考える」
  大月彩香 (九州大学)
  図学の情報化を目的として、これまでにいくつかのCGアプリケーションを試してきた。その中で、ほとんどのアプリケーションが、図学における正投影図と透視投影図を用いてモデリングする事実を得た。いくつかのアプリケーションでは、透視投影法のみで正投影法を用いないか、あるいは、副次的な利用のみに限った、異色のものもみられた。これらの経験を通して、正投影法と透視投影法の利用についての知見を得たので報告する。
14:40-
  「3D-CAD/CG時代の単面投影教育」
  鈴木賢次郎 (東京大学)
  3D-CAD/CG時代になって、3D-CADでは、かつての手描きでは得られなかった<自由回転表示>が基本となり、また、CGでは<透視投影>が基本になっている。前者は任意方向からの<(単面)直投影>であり、後者は手描きの<透視投影>と同じものである。しかし、従来の図学とは用語が異なっていたり、また、CGソフトでは<カメラ・コマンド>により作成するなど、手描きの透視図とは作成手順が異なる。このことは、逆に、例えば、”消点”の概念が曖昧になるなど、それなりの教え方の工夫が必要となる。これらについて教育事例を交えて報告する。
15:00-16:30 パネル討論
  「透視図教育のための教材紹介」
  近藤邦雄 (埼玉大学)
  図学教育、CG教育における透視図教育のためにいくつかの教材、および、国際図学会で報告された「透視図教育のための教材」についても紹介する。透視図の教育には図法幾何学を用いた紙と定規による作図、模型や写真を利用した作図、CGを利用した教材などがある。これらを用いた教育事例について報告する。
  「デザイン言語の一環としての透視図法教育について」
  鈴木広隆 (大阪市立大学)
  大阪市立大学では、図を介してコミュニケーションを円滑に行うための技術・知識という位置付けで図形科学教育を行っている。このため、透視図法教育においても、他の図法と比較した場合のメリット・デメリットに重きをおき、さらに作図法についても、最終的に出来上がる図を強く意識させた教育法を取っている。本報告ではその教育内容を述べるとともに、履修学生がその後設計製図課目においてどのような透視図を描いているかを紹介し、図形科学教育の効果を検討する。
  「大学キャンパスの実測を取り入れた3次元CAD・CG教育と透視投象」
  阿部浩和 (大阪大学)
  本学では3次元CAD・CGの演習として実施している図学実習に大学キャンパスの 実測を取り入れたモデリング演習を実施している。また実測からモデリングへのプロセスにおいて撮影した写真から透視投象の原理を用いて実際の建物を推定させるといった課題を与えている。このことはとかく抽象的な演習に終始しがちな図学実習における図法幾何学の具体的な理解を促進させ、正投象と透視投象との対応関係を体験的に理解させる機会としている。これらについて平成15年度から実施している教育事例の概要を報告する。