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日本図学会第7回デジタルモデリングコンテスト

日本図学会第7回デジタルモデリングコンテスト実施報告

第7回デジタルモデリングコンテスト実行委員長
西井 美佐子(美甫) Misako NISHII
 
2013年11月に開催された「日本図学会秋季大会」の開催に合わせ,日本図学会第7回デジタルモデリングコンテストを実施した経緯,結果を報告する.
 

開催の目的

 コンテストの目的は,機構を持つ立体的構造の考察や立体的な発想による立体形状の製作をラピッドプロトタイピングを用いて製作支援し,作品発表の場を提供することや,コンピュータを用いたデジタルモデリング技術の普及である.
 コンピュータを用いたデジタルモデリング技術や設計技術,造形技術の振興と普及を図る取組みとして,積層造形装置(3Dプリンタ)を利用して3次元データを実体化し,大会にて展示する.また,日本図学会ホームページに作品の意図や使用するモデリングソフトの種類,モデリング工程の概要を公開する.
 今年度は発想のデジタルモデリング変換が困難だった層にも応募可能となるよう「アイデア部門」を新設した.従来からの発想力と3次元モデルで総合的に評価する部門を「造形部門」とし,「造形部門」と「アイデア部門」の2 部門とした.
 

募集資格及び対象

 個人および団体(会員及び一般参加も応募可)が応募資格である.
 応募作品の対象は,建築デザイン,工業デザイン,デジタルアート,ファッション等,ジャンル不問.テーマは自由である.
 

審査基準

 「造形部門」は,発想と3次元モデルデータ構築の総合力で評価する.これまでの切削技術や一体成型では製作することが困難だった複雑な機構や幾何学的図形を実体化するなど,積層造形装置(3Dプリンタ)を利用することによって実現が可能になった立体構造の新規性を評価する.
「アイデア部門」は,実体化が十分に検証されているものであれば,手描きスケッチによるデザインであっても応募可能とする.実体化が可能な形状をスケッチや投影図で表現されている且つ立体的な発想を喚起させる立体構造の新規性,構想力を評価する.
 

作品の応募期間

 2013年7月1日〜2013年10月9日
 コンテストの応募は,当初9月30日が締め切りであったが,締め切り間近で応募数が2点であったため,期間延長し,最終的に造形部門で9件,アイデア部門で2件の応募があった.
 

審査結果

 造形部門,アイデア部門それぞれの入賞・入選した受賞者と作品と以下に示す.今年度は,造形部門最優秀賞1件,優秀賞1件,入選2件.アイデア部門は,最優秀賞該当なし,優秀賞1件,入選なしであった.
以下に受賞作品のリストと審査員のコメントを掲載する.
 
造形部門 入賞・入選一覧表
最優秀賞 継手箱 熊谷 直
優 秀 賞 波型歯すじ歯車を用いた遊星式ギヤドライブ 原賀 匠
園田 計二
竹之内 和樹
入  選 薬師如来像 小林 武人
入  選 エッシャーのDrawing Hands 「描く手」 町田 芳明
 
アイデア部門 入賞・入選一覧表
優 秀 賞 やわらかなフラクタルモデル 望月 清晴
 

造形部門 最優秀賞
≪継手箱≫
(熊谷 直)

審査員のコメント
  • 継手のかたちがわかるように透明の素材で作れば面白いでしょう.
  • 伝統的手法をもとに立方体という美しい形にまとめたところが素晴らしい.
  • 利用している構造は既存ではあるが,素材の選択が良いこと,パズルとして組み上げた創造性を評価したい.
  • 教材としての価値,教育現場でのデータの共有,普及がなされるとよい3Dプリンタの特徴を生かした造形.
  • 建物が出来上がってしまうと見えなくなってしまう継手を全面に出したパズル.光造形でしかできない構造物である.
    ぜひ,実物を手にしてみたい.
造形部門 最優秀賞 ≪継手箱≫ (熊谷 直)
 
造形部門 最優秀賞 ≪継手箱≫ (熊谷 直)

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造形部門 優秀賞
≪波型歯すじ歯車を用いた遊星式ギヤドライブ≫
(原賀 匠,園田 計二,竹之内 和樹)

審査員のコメント
  • 他の方法では形作ることが難しそうな(専門外でわからないが)で,3Dプリンタで実現することに意味がありそう.
  • 3Dプリンタの特徴を巧く利用した機構の構築は興味深い.
    ただし,「見せる」ことを意識した場合には,最終形状がやや面白みに欠ける.厚みを増すなど,更なる工夫が必要かと思われる.
  • 複雑な歯車の組み合わせが面白い
  • 3Dモデリングならではの発想と形状が素晴しい
  • 3Dプリンタの特徴を生かした造形
  • 機構モデルのように見えて,実は実用性の高いギヤドライブであると判断した.光造形により初めて実現可能なデザインである.
造形部門 優秀賞 ≪波型歯すじ歯車を用いた遊星式ギヤドライブ≫ (原賀 匠,園田 計二,竹之内 和樹)
 
造形部門 優秀賞 ≪波型歯すじ歯車を用いた遊星式ギヤドライブ≫ (原賀 匠,園田 計二,竹之内 和樹)
 

 

造形部門 入選
≪薬師如来像≫
(小林 武人)

審査員のコメント
  • 力作ではあると思うが,フィギュアにすぎない.
  • 作品はありがちだが,完成度が高い.
  • 薬師如来かは別として,デザイン,形状の作り込みなど,文句のつけようがありません.
造形部門 入選 ≪薬師如来像≫ (小林 武人)
 
造形部門 入選 ≪薬師如来像≫ (小林 武人)
 

 

造形部門 入選
「エッシャーのDrawing Hands「描く手」」
(制作:町田 芳明)

審査員のコメント
  • エッシャーの平面作品を立体にした試みが面白い.
  • エッシャーの名を出すなら,平面と立体構造の絡み,あるいは終わりのない連続性というあたりに関連付けてほしかった.
  • 原作をモチーフに,構造を再設計している点が評価できる.
    しかし,この構造では,肝心の互いに書いている場所が見えないため,原作の面白さを欠いているのが残念.
  • google画像検索において,探すと,原作に近い形の3次元化の例がある.
  • 実像と虚像が容易に表現できるところが評価できる.
  • 「循環」をテーマにしたエッシャーの著名な2次元作品を,3次元の「実在と虚空間」に置き換えて立体化した発想の視点がよい.
造形部門 入選 「エッシャーのDrawing Hands「描く手」」 (制作:町田 芳明)
 
造形部門 入選 「エッシャーのDrawing Hands「描く手」」 (制作:町田 芳明)

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アイデア部門 優秀賞
≪やわらかなフラクタルモデル≫
(望月 清晴)

審査員のコメント
  • 発想は興味あるが,制作にあたってもう少し情報が必要ではないか.
  • モデルが樹脂の中でどのようなふるまいをするのかはわからないが,実験的な発想が面白い.
  • 立体構造や活用方法まで提案されている点が大きく評価できる.
  • 考え方としておもしろい.
  • タイトルの中の「モデルに影響される環境」という意味が不明である.流体の何を計測するのであろうか.また,境界から生成される次世代を視覚的に予測する,という趣旨も実際の手法が明確でなく非科学的である.
アイデア部門 優秀賞 ≪やわらかなフラクタルモデル≫ (望月 清晴)
 

まとめ

 現状は,数理造形,工業デザイン,建築,エンターテイメント等の様々な分野の作品を1つの部門で審査しているが,同じ審査基準で良いのかコンテストの性質が問われている時期にきているのではないかとの審査員からの意見があった.分野が多岐に渡ることが図学会の特徴でもあるので,その特徴も生かしたいので,即決せずに引き続き充分に意見交換して見直していくのが良いと考えている.
 
 アイデア部門のアイデア具現化に関して,今回は造形方法がプログラムでの自動生成が前提だったためデジタルモデリングは実施しなかったが,デジタルモデリングの担当として協賛いただいたニテコ図研株式会社に深く感謝する.
 本デジタルモデリングコンテストの3Dプリンタ出力に関して多大なる協賛いただいた株式会社アルテックに深く感謝する.