日本図学会第5回デジタルモデリングコンテスト
日本図学会第5回デジタルモデリングコンテスト実施結果報告
第5回デジタルモデリングコンテスト実行委員
西井 美甫(Yoshiho NISHII)
西井 美甫(Yoshiho NISHII)
2011年11月に開催した「日本図学会秋季大会」に合わせ、日本図学会第5回デジタルモデリングコンテストを実施した目的、経緯、結果を報告する。
・開催の目的
コンテストの目的は、立体的な機構を持つ立体的構造の考察や立体的な発想による立体形状の製作を、ラピッドプロトタイピング(粉末積層造形装置)を用いて製作支援し、作品発表の場を提供すること、ならびに、コンピュータを用いた3次元デジタルモデリング技術の普及にある。募集の対象は、複雑な機構や構造を持つ、建築、工業デザイン、デジタルアート作品までの幅広いジャンルの3次元デジタルモデルである。・審査基準
これまでの技術では、製作することが困難だった複雑な機構や幾何学的図形を実体化するなど、粉末積層造形装置を利用することによって実現が可能になった立体構造の新規性を評価する。審査員は実行委員会の7名(←は審査結果が届いた人数です)で行った。・作品の募集
2011年6月1日〜2011年9月30日コンテストの応募は、当初8月31日が締め切り期日であったが、締め切り間近に例年を下回る応募数であったため、更に1ヶ月期間を延長し、最終的に11件の応募があった。
・審査結果
入賞・入選作品、受賞者を以下に示す。今年度は最優秀賞1件、優秀賞1件、入選3件であった。下記に受賞作品のリストと審査員のコメントを掲載する。入選入賞一覧表
最優秀賞 | スフェリコンをベースとした幾何学玩具1つ | 広瀬真輝 三谷純 金森由博 福井幸男 |
優秀賞 | 仕掛け小箱 | 三浦公裕 |
入選 | レース専用車椅子 | 五十嵐豊 |
入選 | 渉(しょう) | 望月清晴 |
入選 | 立体地図(関東中部版) | 町田芳明 |
最優秀賞 「スフェリコンをベースとした幾何学玩具」
(製作:広瀬真輝,三谷純,金森由博,福井幸男)
・内部空間にまで入りこむ極めて複雑な形態。光造形でなくしては実現が難しいオブジェである。 ・スフェリコンの玩具はあるが、新たに開発されたプログラムによるものとして、このコンテストでは意味がある。 ・自作のソフトウェアを利用して、形状デザインを行っている。実際の造形物として作成した際に、動かすこと可能で、楽しそう。色々な形のバリエーションが書き出しできるところが興味深い。さまざまなスフェリコンの形態を見てみたい。 |
優秀賞 「仕掛け小箱」 (製作:三浦公裕)
・他の素材・手法では困難な箱の立体的装飾法である。 ・寄木細工の秘密の小箱をヒントにした鍵のかかる工夫が楽しい。 ・無響室をモチーフにした細かな凹凸の表面がよい。 ・従来からもこのような組木のものは存在しているが、造型機で制作することが十分生かされ、単なる「作ってみました」というものではない、作品としてのすばらしさを感じる。 ・遊び心とデザインを一体化した日本らしい作品。欲を言えば,ギミックにもうひとひねり欲しい。 ・3Dモデリングで実現するのに適した作品である。 |
入選 「レース専用車椅子」 (製作:五十嵐豊)
・きちんと造形されており、実際の形として見てみたい。 ・曲線,直線,傾きといった要素がバランスよく詰め込まれており、緻密に設計されている。いろいろな角度から細かく見たいと思わせる作り込まれた作品。 ・空想の形なので非実用的はあるが、形の美しさと夢がある作品である。 |
入選 「渉(しょう)」 (製作:望月清晴)
・周囲の曲面の重なりがリズミカルで美しい。 ・確かにLEDを十分に生かしたライトはまだ少なく、これから研究の余地がある分野だと思う。そこを考慮した新しいランプシェードとしての提案が生かされており、かたちの美しさも感じる。 ・樹脂製のLED照明ランプシェードのモデリングはモノとして評価ができるのでデジタルモデリング作品として利用価値が高く、推薦する。 ・光と形をテーマにした興味深い作品。造形にはもうひとひねりの感はあるが、この照明によるシーンを見てみたい。 |
入選 「立体地図(関東中部版)」 (製作者:町田芳明)
・健常者でも視覚障害者でも興味が湧く立体地図。できるだけスケールが大きい方が良いと考える。 ・アイデアはとても良いが、もう少し強調してもよかったのではないだろうか。 ・都県の境が分かるように色分けし、視覚と触覚の両方の感覚を用いることで、視覚障害者の地理教育への応用ができるように配慮していること、そして造型機の利用が十分に生かされていると思われる。 ・将来データとして普及して手軽にプリントアウトできる社会になることを夢見て視覚障害者にも有効な地図データの蓄積に成る事を望む。 |
まとめ
今年度のコンテストでは、芸術的な部分と、数理造形的な両方を兼ね備えている作品、粉末積層造形装置を使うことを見据えた作品、デジタルモデリングの見応えのある作品が登場した。またベーシックなジオメトリーでありながら、今後の図学教育の新しい授業形態として提案できそうな作品もあった。このことからさまざまな分野に立体造形の活用が広がったことを示しているといえる。その反面、応募数の減少や、作品の分野に一極集中の傾向があるなどの課題点が見えてきた。応募数減少の要因の1つとして考えられるのが、秋季大会に合わせた募集時期である。時期的に学生の作品などが集まりにくいのでは?という意見が過去の理事会であったと報告されている。応募数を増やすための提案として、デジタルモデリングの実習を大学で行い、その作品を出してもらうようにピンポイントで声をかける。また高校生まで対象を広げ、高校生部門を設け、デジタルモデリング実習を行っている工学系の技術高校などの作品を応募してもらうように声がけを行う。その場合の声がけは教育の中である程度意味づけができている生徒対象が適切であると、実行委員より意見が挙がっている。
最後に、本デジタルモデリングコンテストに、多大なる協賛をいただいた株式会社アルテックに深く感謝する。