第8回日本図学会論文賞選考結果報告
日本図学会論文賞選考委員会
第8回日本図学会研究論文賞選考委員会は,2011年および2012年の図学研究に掲載された研究論文から論文賞にふさわしい優秀な論文の選考を行った.まず編集委員全員によびかけて 候補論文をいくつか選び,順位づけを行った.選考委員会は, その中で最も評価の高かった下記論文を候補として選定し,理事会で報告し,承認された.第8回日本図学会論文賞(研究論文賞)
受賞者: | 正会員 奈尾信英(東京大学) |
受賞論文: | 「南ドイツにおける透視図法の展開(2)—16世紀のクラフツマンによるパターンブックの図的表現の考察--」 (図学研究第46巻1号掲載) |
視覚パラメータの調整という簡単なインタフェースで,趣の異なる絵画風画像が様々に生成される技術が優れている.パラメータの導入においても,人の視覚情報処理過程を十分考慮しており,手法の提案だけでなく,実際に画像生成システムを作成して,絵画の特徴に対応した画像を生成できている.本論文は,『南ドイツにおける透視図法の展開(l)-16世紀のクラフツマンによるテキストブックの考察-』の続編である.この(1)では.A.デューラー没後,15世紀のイタリアで芸術家や建築家により用いられた透視図法について,16世紀の南ドイツで活躍したクラフツマンたちによって著されたテキストブックを分析し,アルプス以北のドイツ語圏に特有の透視図法が展開されたことを明らかにした.受賞論文である『南ドイツにおける透視図法の展開(2)-16世紀のクラフツマンによるパターンブックの図的表現の考察-』では,ドイツでの展開を豊富な資料を精査しながら明らかにした.とりわけ16位紀の南ドイツのクラフツマンたちによる作図法について,フランスやイタリアと比較し,それぞれの特徴を明確にした.その結果,南ドイツのクラフツマンたちは,多面体が組み合わされた立体図形そのものを表現するために透視図法を用いていたが,同時代のフランスやイタリアの数学者・芸術家たちは.立体図形の外側に空間を想定し,空間グリッドから精確に立体図形を描き出していたと述べている.これらの特徴を見出したことの意味は大きい.対象論文の(2)のみならず,(1)から積み重ねられた本研究は,透視図法あるいは図学史研究として,たいへん意義のあるものである.今後の研究にも期待する.