日本図学会 > 日本図学会賞 > グラフィックス・リテラシー教育の開発

2008年度日本図学会賞選考結果報告
日本図学会賞選考委員会

 2008年度日本図学会賞について,本学会正会員より候補者の 推薦がありました.これを受けて委員会では日本図学会賞規 定・同内規に基づき推薦内容について慎重審議し,候補者を決 定し,総会において以下の受賞者が承認されました.
 
受賞者:正会員 鈴木賢次郎氏(大学評価・学位授与機構)
業績:「グラフィックス・リテラシー教育の開発」
業績概要:
 鈴木賢次郎氏は,図法幾何学と3D CAD/CG とからなる一 連の図学教育カリキュラムを開発し,東京大学における教養教 育の一環としてこれを実現した.氏は,図学の素養があらゆる 分野に進学する学生に必要であるとの考えから,これをグラ フィック・リテラシー教育と呼んでいる.
 氏は,従来,技法中心に教えられてきた図法幾何学を,3D CAD/CG を含む図学の基礎,すなわち,投影と立体の幾何学 を教育する手段として再評価すると共に,図法幾何学的手法― 3次元の立体幾何に関する問題を2次元の図の問題に帰着―が 3D CAD における問題解決においても有効であることを示 し,図法幾何学を当該カリキュラムの一つの柱として位置づけ ている.一方,3D CAD/CG が広く普及した現在,図学教育 においてもその基礎教育が必要との考えから,これらをカリ キュラムに導入し,現在の一つの柱としている.ここでは,た んにそれらの操作法を教えるだけでなく,説明例題や練習課題 として,図法幾何学的手法を直接利用する課題の他に,機械・ 建築・化学・物理・生物分野など様々な分野から応用幾何学的 な課題を導入し,また,自由に視点を変えて透視投影を作成し 観察させるなど,手描きの図法幾何学では実現が困難であった 課題を導入することにより,3D CAD/CG の学習を通して投 影と立体の幾何学に関する理解を深めるように配慮している.
 氏の開発によるカリキュラムは,3D CAD/CG の普及以来 続いてきた「手描きかCAD か」といった論争に終止符をう ち,将来の図学教育について一つの方向を示したものと言えよ う.氏は,当該カリキュラム,および,その背景となっている 図学教育についての考え方について,日本図学会,国際図学 会,日中図学教育国際会議など図学関連学会・会議のみなら ず,日本設計工学会,情報処理学会(グラフィックスとCAD 研究会),建築学会等で発表するとともに,その教科書を一般 書として世に出し,グラフィックス・リテラシー教育の普及に 努めている.
 以上の氏の業績は,図学教育の発展に多大な寄与をするもの と考え,その業績は本学会賞受賞に相当するものと認められる.